有松には日本遺産に認定された歴史的な街並みとともに、蔵による発酵の文化が根付いている。今から約400年前の江戸時代から現代に続く味噌・醤油・酒造などの製造は日本の食文化を支える伝統的な産業である。また、有松鳴海絞と呼ばれる染めものもまた有松の地で栄え、そのルーツは同じく知多・阿久比の特産物である知多木綿が担っていた。阿久比で育った開祖・竹田庄九郎が故郷の知多木綿と農家の手仕事を有松鳴海絞へと発展させた歴史をもつ。
海に近い知多地域では地元で獲れる魚や農産物の恵みを生かす醸造・発酵文化が発展し、米からは酒造り、絞り粕からは味醂や酢が作られた。そして豆からは味噌や溜り醤油が作られており、どれもが尾張地域の食文化を支え続けている。また、有松鳴海絞りのルーツは知多にあり、手拭いの絞り染めから始まった手仕事は世界でも有数の絞り染め生産地に発展していった。
食と手仕事を巡るこの旅では、五感を全て使いながら蔵のある街並みを「歩き」「感じる」体験を共有していただきます。
世界有数の絞り染め文化、「有松鳴海絞り」の原点となった知多から、伝統と革新の街「有松」へ向かう旅。この土地の人々を育んできた食文化をひも解きながら、現在に繋がる伝統の持つ力や技を五感で感じる旅です。
味噌、醤油、酒、味醂、酢といった発酵文化が地域に根付いており、古くからの蔵が多く残る。武豊町では南蔵商店をはじめ、味噌の香りが漂う街並みの中、100年以上使われている木桶の中で発酵が繰り返されています。澤田酒造でも地域とともに在る酒蔵として丁寧な酒造りを続けています。
有松鳴海絞の創始者である初代竹田庄九郎が生まれ育った地、阿久比。手機から自動織機による生産へと変遷を遂げた木綿生地の一大生産地であり、現在有松鳴海絞に使われる生地はトヨタ創業当時の豊田自動織機時代の機械によって織出されている。すでに製造中止となったこの機械は、社内で修理部品を加工しながら大切に守り継がれている。
江戸時代初期、有松地区に入植した農民によって興された有松鳴海絞は、尾張藩の財源を担う特産品として庇護を受け全国に広まった。細やかな手仕事により意匠・デザインの自由闊達さを表現し、使うほどに風合いが増していく絞り染めの魅力を今も伝え続けている。伝統と革新の気風をもって、今も、新しい絞文化を生み出し続けるこの街は、かつての江戸の名残を残す静かな街並みの中にひっそりとたたずんでいる。